冬の終わり

 暖かな陽光が雪を溶かす。
 桜の蕾が色づいている。
 冬が遠のく。
 冬の終わりはどこか感傷的になる。また冬に会えると知っていても。
 冬とは死の季節であり、死は生と表裏一体であるから、生を実感させる季節でもある。私はそこが好きなのだ。身に迫ってくる、鮮烈な生と死。そういう物理的な刺激を受けて初めて、ああ私は生きているな、と思える。
 現代日本で暮らし、体が健康な私にとって、死は遠い場所に在るもののように感じられる。そんな私にとって、死が身近に迫るのが冬だ。身を刺す寒さによって高揚感を得るのは、死に対する本能のようなものだろう。
 冬も終わり、春めいた陽気に気が緩む。
 休日。とくに何か急ぎのタスクもなく、いつも通りやる気もないので、布団の中で生きているんだか死んでいるんだか曖昧な状態になってみる。
 車の走行音、冷蔵庫の駆動音、己の呼吸。
 静かだ。
 思考が四方八方に散らばってゆく。
 微睡み。
 目覚め。
 再び微睡む。